マミヤ645攻略法

マミヤ645は中判カメラの中でも扱いやすく、レンズも安価です。いじって使うのにはうってつけなので自分でいろいろやってみました。 現在(いつまでも?)進行中。最新更新 2013/12/31

無関心だったマミヤ645

6x6や6x9の中判はだいぶ前からやってたけど、6x4.5の存在にはあまり目がいかなかった。中判カメラでもハッセルのようにバックを変えれば6x4.5は撮れる。だけど6x6を撮るカメラでわざわざ6x4.5を撮る意味は無い。 それと645は世代が新しく機械式のカメラが無い。645はどれも全部電子式なのだ。もともと機械式カメラに興味があったので、645には大して関心が湧かなかった。 だがある日マミヤ645の中古MFレンズのコストパフォーマンスがすごく良さそうな事に気づいてしまった。調べてみると種類が豊富だし、なかなか良さそうな玉が多い。

マミヤ645レンズ群

中でも目をひくのが35mm F3.5、80mm F1.9、 80mm F4 マクロと 110mm F2.8だ。 45mm F2.8も大口径だ。 リーフシャッターのレンズまで数本あるからストロボも使いやすい。 6x4.5はレンズもボディもハッセルやSL66より小さく軽い。

アメリカではマミヤ645のレンズはかなり安価にeBayに出まわっている。 M645レンズがどれだけお買い得かというと、例えばM645の35/3.5という広角はハッセルブラッドSWCよりさらに広くて明るいのに5分の1以下の価格だ。 M645の110/2.8はハッセルやSL66の120/4より1段明るい。 そして80/1.9なんて大口径は中判カメラの中で一番明るい。

といっても645と66を直接比較するのはあまり意味がない。それに高スペックの駄レンズなんてよくある話だ。 そこで調べてみたけどサンプル画像やアメリカの掲示板を見る限りM645レンズの評価はそこそこ高いようだ。 ここまで来たらマミヤ645を手に入れてぜひ試してみようという気になってしまう。


マミヤ645世代

調べてみるとマミヤのマニュアル645には大まかに2世代ある。

  • 第1世代 M645とM645 1000Sに廉価版のM645J、
  • 第2世代 645スーパー、645 Pro, 645Pro TL

第2世代はプラスチックボディになってフィルムバックが取り外し式になったが、全機種レンズマウントが共通しているので同じレンズが使える。 ただしファインダーやフィルムバックは世代間に互換性が無い。

このシリーズでどれが良いかと言うと、第2世代で一番成熟している645 Proや 645 Pro TLらしいのだが、価格もそれなりになってしまう。 第一世代のM645、M645 1000SにM645Jはかなり安く、ヤレていれば100ドルを切る。日本円の感覚で数千円だ。もっともかなり古くなってしまうので、シャッター周りなどの電子回路がどうなっているか不安もある。

それでもM645と改良版のM645 1000Sは1975年から1990年まで15年間も販売されていた訳だし、中古で安くてもそれなりに使えるカメラのはずだ。 そこでボディはこの第一世代の3種のどれか、そして気になるレンズのうちからどれか少なくとも一本を試してみる事にした。


やってきたM645キット

それなりに安いM645だが、レンズ2、3本を合わせて売っている場合、さらにお買い得になる。そこでeBayでお目当てレンズのどれかと一緒にボディを売っているオークションに幾つか入札した。

ところがみなさんわかっているらしく、良いレンズ入りのキットにはそこそこの値段がつく。けっこう手強い。幾つか入札しては負けると言う事を繰り返して、最終的にM645 1000Sに45/2.8, 80/1.9, 150/4のレンズ3本のセットを落札した。

といっても長期間しまってあったので、ボディは動作するかわからない、レンズはガラスには問題が無いが、動作は保証しないという、かなりのギャンブルオークションを落札してしまったのだった。

やってきたM645キットは、お目当ての85/1.9はヘリコイドがちょっとスカスカだけど美品でガラスも絞りも状態が良くひと安心。ところが150/4は絞りが閉まったまま戻らない。 45/2.8に至っては絞りにオイルがにじんで動かない。

と、まぁここまでは想定内だった。この難ありレンズ2本は安いので自分で治すかジャンクで処分すれば良い。 で、ボディだが、外観はそこそこきれい。塗装のハゲもあまり無い。モルトはボロボロだったがこれも想定内。 それでは、と新品の電池をいれて動かしてみたのだがミラーが戻らずシャッターが開いたままになってしまう。 やはり電子回路はダメなのか。

素人修理に挑戦

数年前、カメラ修理に憧れた事がある。最初の頃はボルシーやエグザクタをばらして元に戻せなくなったりしたけど、工具を揃えて古いローライフレックスを治したり、カメラのトップカバーを外してファインダーの清掃やメーター調整をしたりしてた。荒技でM42の銀銅テッサーを削ってペンタックスSPで使えるようにしたりもした。

なので簡単な分解と清掃調整位はできる。 でも、シャッター関連とかムズカシイ機構を治すには自信が無い。だからきちんとした修理は専門家にやってもらっている。 ところがM645ボディは修理に出すにはあまりにも安い。修理費がボディより高くなるのだ。

そこでもしかしたら簡単な故障かもしれない、電子回路だし。と自分に言い聞かせて開けて見てみる事にした。


第一の難関

Mamiya M645 内部

巻き上げハンドルを外し、ミラーアップと多重露光のノブを外し、外皮をちょっとめくってネジ数個を外すと右側カバーが外れる。意外と簡単だ。

そして開けてみると電子式カメラとかいう割りに電子部品は右上の隅っこにソレノイドが一個あるだけ。あとは歯車だらけ。フレックス基盤とか予想していたのに機械部品ばかりで話がちがう。全く違う。

よーく見るとソレノイドがレバーを押すようになっている。 ミラーアップしてフリーズした状態でこのレバーを押してみた。するとパタン、とミラーが戻り後幕がしまる。

機械部分は動くじゃんか。 やはり電子回路がだめなのか、と思いつつ仕組みを観察してみる。 機械式のカメラと同じで、シャッターを押すとミラーと先幕が機械式に動き、一定時間後にこのソレノイドがレバーをつつくと後幕が走ってミラーが戻る仕組みのようだ。 電子式とはいっても機械式動作の一部をソレノイドに代用させているだけのようだ。 これなら判りやすい。

試しにソレノイドの端子に通電してみるとコトン、と鼓動のように動作してミラーが戻る。 おぉ、心臓はまだ生きている。生きているぞ!

要するにソレノイドへ信号が来ていないようである。 断線でもしてるのかと思って配線をたどって行くと、故障箇所が見つかった。 ソレノイドの駆動信号は、ボディの逆側にある小さな回路から来るのだが、この回路はIC一個とコンデンサーと抵抗数個だけの簡単な回路だ。シャッターを切るとその信号がこの回路にやってきて抵抗を通してコンデンサーを充電する。このコンデンサーがある程度まで充電されるとソレノイドを駆動する、という回路になっている。シャッターを切ってからコンデンサーが充電されるまでの時間がシャッタースピードなのだ。

M645のシャッタースピードの切り替えはこの遅延回路の抵抗を切り替えて遅延時間を変化させている。 これは電気を知ってる人なら、あぁRC時定数ね、とわかってしまう単純な回路で、何十年経っても壊れるようなものではない。RC回路用に一個だけあるコンデンサーは経年変化するけれども、M645の回路は普通の基板に普通の部品で組み立てられた何十年経っても普通に手に入る部品だ。

で、故障の原因だが、辿って行くと電池をセーブするために回路に必要なときだけ通電するようになっている。巻き上げレバーの前にリードスィッチがあり、シャッターリリースした瞬間にカムで押され回路に電源が入るようになっている。 このリードスィッチが根元から折れていた。

M645 リードスィッチ リードスィッチの根元はプラスチックで経年劣化で折れたようだ。2液エポキシで接着したが、カムに押された際にかなりのトルクがかかるので二回もやり直した。 これでシャッターがパシャパシャ切れるようになった。

とにかく感動した一瞬だ。

それにしてもM645の発売は1975年。40年前の設計なのに電子回路はそつなく簡素にまとめてあってすばらしい。そして実際に故障しても自分のように大した知識が無い人間でもトラブルシュートできてしまう。整備性の良さに当時のエンジニアの優秀さを見て取る事ができる。


第二の難関

M645 ソレノイドリリース故障 で、シャッターが切れるようになったので、感動のあまりパシャパシャやっていたが、なんかおかしい事にきづいた。シャッタースピードが一定しないのだ。 そこでシャッター速度を計ってみた。 フォトダイオードの光検出回路の出力をデジタルオシロで見る簡易法だ。

これでパシャパシャやっていると不安定で、さらにそのうち1/30固定になってしまった。 もういいや、とあきらめかけたが、動作をじっと見ていると、ソレノイドに押されたカムが戻らないようだ。

よく見てみるとカムの極細リターンスプリングが変なところに引っかかってしまっていた。 開けてすぐデジカメで撮ってあったので、拡大表示して比較できたのがよかった。デジカメもたまには役に立つ。

このスプリングをなんとかもとに戻してシャッター速度が設定に応じて変化するようになった。やれやれ。


第三の難関

そこでシャッター速度を計ってみたのだが、これが全くでたらめだ。 がっくりしたが、念のため、と機械系をちょっとずつ洗浄し、わずかずつ油をさしてみたら改善はしたが、ほど遠い。

そこでネットでマミヤ645の英文サービスマニュアルを見つけた。それによるとM645のシャッター速度調整は2カ所あって、巻き上げハンドルの根元にあるカムスィッチの接点タイミングで1/1000スピードを調整し、その後ボディ逆側の回路基板上の反固定抵抗で1/60を調整するとなっている。

いろいろと調整してみたが、低い方はバッチリできるが、1/125位から上は十分に早くできない。1/1000にいたってはシャッターが開かない。 これはどうやらシャッタードラムに問題があるようだ。マニュアルにはこのへんの整備方法が載ってるのだけど、幕速度を計る計器が必要だし、ボディもさらにばらさないとならない。

自分がそこまでするのはちょっと無理があるので、ここでひとまず終わりにする事にした。 最初は遅いフィルムでじっくり撮るつもりだし。


第四の難関

閉めてしまう前にちょっとテストする事にした。 中身むき出しのままだけど80/1.9を付けてフィルムを入れて撮ってみる。 巻き上げオーケー。 でもファインダーのぞくと無限遠が合っていない。 実は分解する時にファインダースクリーンの調節ネジを間違ってまわしてしまったのだった。 これを調節してようやく合うようになった。

   


第五の難関

M645 絞りリターンスプリング修理 とにかく撮れるようになったので、ちょっと使ってみたが、上記にあるように3本あるレンズのうち一本しか使えない。

45/2.8は絞り羽根がオイルまみれ、そして150ミリは絞りが戻らない。 不動の二本とも光学系はピカピカなのでなんとももったいない話だ。これが気になってしょうがない。 そこで簡単そうな症状の150ミリレンズをまず治す事にした。

後部マウントリングをはずしてみるとはるか奥深くに外れたバネが見える。 これが原因なのは明らかだが、ばらさないと届かない場所だ。 バラし方がよくわからなかったので慎重にばらしていったが、絞りの連結系統をはずし、後ろ玉のアセンブリーをまわすと丸ごととれて来た。

なんとも簡単で、光学的にも再現性の良い作りだ。自分のような素人にも整備しやすくできてると感心する。
これでバネに届くようになったのでピンセットで元のポストに掛けて、組み直して完成。 絞りがちゃんと自分で開くようになった。 これで150/4レンズで撮れるようになった。


第六の難関

DSC7985 よし、じゃあさらに、と絞り羽根が油まみれの45/2.8にも挑戦したが、マウントリングの+ネジが固くてどれもまわらない。

ロックタイトでも使っているのか、と半田ごてで暖めたりしたけどとにかくまわらない。 ネジをナメてしまいそうだったので安物のドライバーが良くないと気がつき、高級工具を注文するはめになった。

知らなかったのだが、小型ネジの+はアメリカと日本では微妙に形が違うのだそうで、日本のカメラをいじるにはJIS-S用ドライバーが必要になるのだそうだ。 そこで何はともあれ、とドイツのWihaと念のためにアメリカのAcu-Min製を注文してみた。精密機器はドイツというイメージなので先入観ではWihaが上だったのだが、実際に使ってみたらWihaではネジがまわらず、Acu-Min製ドライバーでようやくまわった。 自分はこれでも一応アメリカ人なのでアメリカ製が期待に応えてくれると嬉しい物だ。   DSC7987

いったん裏カバーが取れたら後は楽で、シャッター・絞りユニットにねじ込んであるだけの前玉と後ろ玉ユニットを外すと絞りに到達する。 絞りは油がベトベト状態でほぼ動かなかったが、分解してしまうと元に戻す根気がないのがわかってるのでそのままアルコールで洗浄することにした。

スムースに動くようになるまで羽を曲げないようにしながらそっと拭く。そこそこキレイになったら絞りを動作させて出てきた油をまたそっと洗浄する。 絞りがスムースに動くまでかなりの手間で、これはこれでかなり根気が必要だった。

これでとりあえず45/2.8が動くようになり、レンズが三本とも使えるようになった。


M645を使い倒す

(ようやく最終章。でも書きかけ) ようやく使えるようになったM645だが、あれだけボディをいろいろいじったのだけどシャッタースピードがいまいち安定しなかった。 幸いというかなんというか、修理中にボディはしっかり増殖していたのでその中からコンディションの良いM645Jのモルトを貼り替えてとりあえず使う事にした。

M645のボディはブロニカS2aやローライフレックスSL66などの重量級中判SLRと比べると小ぶりで取り回しが良い。持った感じはハッセルに近いがちょっと平べったいのでホールド感も良い。それになんともかわいい。

第一世代のM645はフィルムバックが交換できないが、自分は他のカメラでも殆どバックをはずさない。だからダークスライドをなくしたり曲げたりすることも無い。 そして、やっぱり一番良いのが、M645は安価で容易に85/1.9, 35/3.5や45/2.8の大口径レンズが使える事だ。 どのレンズも普通に撮ればしゃっきりはっきりとしたコントラストの写真が撮れるし、思い切りボケさせる事もできる。

弱点としてはやはり電池が必要な事だ。電池は6Vの小型電池で簡単に入手できないからスペアは持っておくべきだろう。また、使わずに置いとくと液漏れしてバッテリーボックスが断線したりするのは他のカメラと同じだ。 あと、大口径レンズが手軽に使えるのは嬉しいが645判でも大口径レンズは重い。85/1.9や45/2.8を付けたM645は標準装備のハッセルより重いからその辺は考えとくべきだ。

4 thoughts on “マミヤ645攻略法

  1. いつも拝見しています。とても面白いです。今回の記事はすごく参考になりました。実は最近、オークションでM645 1000s(ブルー革貼り)のジャンク品(シャッター不調)を落札しました。早速、いつもの修理屋に電話したところ、アツサリ断られてしまいました。1000sは
    電子シャッターだから”修理不能で嫌”とのこと。それで仕方なく自ら、
    修理をする決心し、このプログ(何回も熟読)を参考に、危険な素人修理に挑戦しました。そして3日目に感動のシャッター復活です。特にソレノイドの記事が参考になりました。私の場合は電池Boxのマイナス配線が断線していました。

  2. シャッター復活おめでとうございます! 拙いブログですがお役に立てて嬉しい限りです。 

    電池ボックスの断線はM645にかぎらず時々あるようですね。 M645は電子回路と言ってもおおらかなものですし、フレキシ基盤満載の電子一眼カメラと一緒にされるのは可哀想な気がします。
    ブルー革は、カッコイよさそうですね。 ぜひ見てみたいです。

  3. こんにちは。
    拝見させて頂きました。
    「巻き上げハンドルを外し、ミラーアップと多重露光のノブを外し、外皮をちょっとめくってネジ数個を外すと右側カバーが外れる。」と有りますが、ノブのはずし方がイマイチよく分かりません。
    もし宜しければ、ご教示願います。

  4. コメントに気づくのがすっかり遅れてしまいましたごめんなさい。 ミラーアップも多重露光のノブも上にカバーが貼ってありますがネジでとまっていたと思います。あとネットを探すと英文のM645のサービスマニュアルが出てくるのでそれで見るとわかりやすいです。

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