遺伝子と自分 (4)

健康関連の遺伝子情報はイマイチだったが、祖先関連の情報はどうだろう。

祖先関連の情報はハプログループと呼ばれる遺伝子グループ情報、人種別遺伝子の組成、そして23andMeの登録ユーザーで共通の遺伝子を持つ、つまり血縁関係の情報になる。

これはどれもそれぞれ予想外に面白かった。長くなるので分けて見てみる。

ハプログループ

ハプログループというのは、人類の遺伝子の分類らしい。血液型みたいなものと思えばよいだろうか。調べてみたらハプログループは人類の移動と変化の記録でもあり、自分の遺伝子の分類を知ると自分の祖先について知ることができる。

人類はアフリカで発祥し20万年かけて世界各地へ広がっていった。その過程で環境や気候への適応を繰り返しながら違う民族や人種に分かれていった。 ウィキペディアに過去10万年以上のその過程がわかりやすくグラフになって出ている。

まぁ現実はこんな簡単な話ではなく、氷河期や温暖化になり、草原が砂漠になり陸地が干からびたあげく水没したりした。人間で何千世代に渡る時間だ。その歴史を早送りしてみれば人類は右往左往しながら知恵を働かせるだけでなく遺伝子も環境に適応させ生き延びながら世界各地へ散らばっていった、となる。

もちろん途中であえなく消え去っていった遺伝子グループもあるだろう。実際のところ、人間の個体間の遺伝子の差異は他の動物とくらべ小さく、これは人口がほぼ絶滅状態まで少なくなった結果だそうだ。

そして特定のグループが定着した地域に新しい遺伝子グループが移住してくるという「上書き」もよくあったようだ。豊かな環境なら流入した遺伝子グループが共存または吸収されることもあったろう。でもSF風にいえば、平和に暮らす人たちの土地を狙って変異したミュータント達がおそいかかってくるような事もあったろう。

日本でも縄文人と弥生人はもっぱら前者の関係だったという説が多いようだ。その一方、武士の頂点の征夷大将軍という役職はもとは蝦夷と呼ばれた先住民を征伐する、という後者の意味だ。

さて、自分のハプログループだが人間は両親からハプログループを受け継ぐ。23andMeでは父系と母系(女性は染色体の数が違うため母系のハプログループのみ)のハプログループとその歴史も教えてくれる。

まず自分の父系は弥生時代の渡来系だということがわかった。このハプログループは3万年ほど前にチベット高地から東アジアに広まり、紀元前三世紀の弥生時代に稲作と青銅器を携えて日本へ渡来した。その後日本の人口に取り込まれ日本の環境に合わせて変異した遺伝子グループなのだそうだ。

そして母系のハプログループだが、こちらは1万8千年前の氷河期時代にシベリア地域で発祥し、極地並みの寒さだったシベリアでなんとか生き延びた遺伝子グループの人類だった。父系の遺伝子グループよりもっと古代の遺伝子グループだ。 カムチャッカ半島に多いが、氷河期が終わるとともにシベリア北日本海沿岸の地域に散らばって行った。陸続きだった日本にも移住してきた訳だ。

氷河時代の極寒を生き延び、太古の昔に北方経由で日本へ移住した母系ハプログループと、中央アジアから広まり比較的近代に移住してきた父系のハプログループ、その果てしなき時の流れの果てに自分がいるわけだ。

自分の遺伝子にはそんなSFも顔負けの壮大なストーリーが刻まれていた。

(続く)