遺伝子と自分(6)

血縁関係と遺伝子SNS

血縁関係にある遺伝子は一部が一致する。だから二つの遺伝子を比較してどれだけ一致しているか調べればどんな血縁関係かわかる。

23AndMeは登録しているユーザー同士で遺伝子の一致があり、かつ双方が希望すればお互いに安全に連絡を取れるシステムになっている。いわば遺伝子ソーシャル・ネットワーキング・システムだ。

23AndMe側でデータを照合しているのでウソもつけないしなりすましも無い。そして登録ユーザーは増えつつあるので、将来も新しい血縁関係の輪が広がり続けるSNSという事になる。

自分には今のところ56人の血縁関係が見つかっている。ほとんどが何世代も前の祖先の兄弟の子孫で、何十親等も離れている。だが一番近い二人が4th cousinという関係だった。Cousinはイトコ。立派な血縁ではないか。

ところが4th cousinというのは祖父母のさらにまた祖父母の兄弟の子孫で、12親等だ。六世代もさかのぼった200年も前の祖先の兄弟から分かれた間柄で、コンタクトするほどの関係には思えない。

ツィッターで知らない人とのやりとりが当たり前の時代に、ちょっと矛盾しているような気もするが、遺伝子SNS上で血縁関係だから声を交わす、というのはしっくりこないようだ。

意外なコンタクトの理由

ところが知り合いの東洋人女性が23AdnMeで遺伝子検査を受けたら、遠い血縁関係の人が二人ほどコンタクトを取ってきた。

コンタクトを取ってきた人達はみな東洋系アメリカ人だったのだが、どういうわけか韓国孤児だった過去を共通して持っていた。

実は朝鮮戦争が1953年に終結した時、韓国に多数の孤児が残り、欧米でその孤児たちを養子として引き取るようになった。その風潮や続き、英文ウィキペディアを見ると1953から2001年の間だけでも計15万人の孤児が外国へ引き取られている。七割の孤児の行く先はアメリカだ。

コンタクトを取ってきた人たちはアメリカ人両親にアメリカ人として育てられ、生まれた国の言葉も何も知らずに育った。自分の生まれや実の両親兄弟のことを知るすべも無い場合が多い。そういう状況の人たちがルーツを探して23AndMe上に集まっているようだ。

生まれは韓国でも彼らはアメリカ人だからあっけらかんと実名で自身の過去や血縁探しの理由を明らかにしている。そんなプロフィールやフォーラム投稿を見ると、親等がはなれていても血縁を見つけるのはかれらにはとても意義がある、ということが伝わってくる。

血縁関係の検査と遺伝子SNSは人によってはとてもポジティブな事なのだ。

もちろんそれで全てが解決するわけではないだろう。例えばコンタクトされた知り合いは日本人だ。祖先構成に韓国系の遺伝子はほとんど無い。それなのに韓国生まれの人達が微小ながら血縁関係になるのはなぜだろうか。それはコンタクトしてきた人たちに日系の遺伝子があるからだろうか。だとしたら彼ら・彼女たちが孤児になった理由となんらかの関係があるのだろうか。

一つを知ることはまたいろいろな質問にも繋がっていく。だが遺伝子はその答えを探す手段にもなる。

終わりに

自分の健康に関わる遺伝子情報を知りたくて検査を思い立ったのだが、素人が見ても健康関連の検査はあやふやだという印象を受けた。

この印象は間違っていなかったようで、自分の結果を受け取った直後に米国政府が23AndMeに健康関連検査の停止命令を出した。(祖先検査は続行

それにくらべ、祖先関連情報はどれも予想外の大ヒットだった。親の遺伝子グループと歴史、自分の人種組成、どれも知ってよかったと思う。

そして血縁関係の調査では知らなかった歴史にいろいろ深く考えさせられた。 人間は誰しも壮大なスケールの歴史とストーリーを遺伝子の中に持っているものなのだとつくづく思う。

祖先関連の遺伝子検査は23AndMe以外でも受けることができる。例えばナショナルジオグラフィックがジノグラフィックプロジェクトを進めていて、今までに140国の65万人が遺伝子検査をして参加している。これからもっとポピュラーになるのかもしれない。

そうやって遺伝子検査をうける人口が増えればいろいろなデータがもっと蓄積され、人類の知られざるストーリーがいろいろと明らかになるだろう。

自分は歴史の中にどう当てはまるのか、どこから来てどこへ行こうとしているのか。そんな疑問が解き明かされる時代がもうそこまで来ているようだ。

遺伝子と自分(5)

アメリカ人・日本人の人種認識の違い

アメリカ人は雑種なのが当たり前だ。アメリカ人に血筋を聞くと, 半分ドイツで、4分の1北欧、あとの4分の1はオランダ、などとすらすらと返ってくる。 なら民族はと聞くと、ドイツだな、おれビール好きだし、と自分の事を「ゲルマンのアメリカ人」だと、民族と国を別に認識している。

アメリカ人にとって人種は自分自身で、民族は自分の伝統と血筋だ。民族は自分の血筋の一つだから選択の自由まである。そして大切なのがアメリカ人は自分の人種や民族を自己肯定の材料として捉える。だからおおっぴらに話す。

だが日本人はどうだろう。日本人にとって人種は民族で国だ。自分達の遺伝子は人種が混ざってるなんて考えもしない。だがもし混ざっていたらどうなるだろう。例えば日本人だと思って接してた相手が実は一部違う人種だとしよう。日本人にはそれだけで大きな違いだ。混ざっていた人種によっては悪意の対象にさえなる、と言っても大げさではない。

そしてさらにそれが自分の立場だったらどうなのだろう。

アメリカ人は自分の人種組成を知ることをアイデンティティーの確立ととらえるが、日本人にとってはアイデンティティーがひっくり返されてしあう可能性もある。日本人に自分の人種組成を知るメリットはあるのだろうか。

自分の人種組成と日本の歴史

23andMeの人種別組成検査は遺伝子に含まれる人種の構成がわかるというものだ。どうやってわかるんだろう、と難解な人種別組成検査の説明を読んだらちょっとだけわかった。ようするに既存データの統計をもとにやっているようだ。確率的な事になるようだが、自分のような東アジア人の検査はかなり正確らしい。

で、この検査結果だが、自分は92%日本人だ、と出た。 残りの8%はいろいろな東アジア人種が混ざっているそうだ。

9割以上も日本人だと捉えるのか、9割しか日本人でないとみなすか。

両親の家系は知る限り代々日本人だ。自分の父方のご先祖様なんか、へっぽこだがいちおう戦国武将だ。すっかり純血日本人種のつもりだったがその他アジア民族8%だと、どういうことだ。と首をかしげる事になった。

だが、これこそが普通の日本民族なのかもしれない。島国で孤立していたとは言え、この2000年、せいぜい100世代の間でさえ日本列島の人類は渡来弥生人や征夷討伐だのと違う遺伝子との交配を繰り返し取り込んできた。現代日本人はある程度、他人種が混ざってるのが普通だろうというのは良く言われる事だ。

だから9割以上も以下もない。全部ひっくるめて日本人なのだ。少ないながら多民族の痕跡を持つ自分の遺伝子は、何万年も遡る日本の歴史の記録でもあるわけだ。

(続く)

遺伝子と自分 (4)

健康関連の遺伝子情報はイマイチだったが、祖先関連の情報はどうだろう。

祖先関連の情報はハプログループと呼ばれる遺伝子グループ情報、人種別遺伝子の組成、そして23andMeの登録ユーザーで共通の遺伝子を持つ、つまり血縁関係の情報になる。

これはどれもそれぞれ予想外に面白かった。長くなるので分けて見てみる。

ハプログループ

ハプログループというのは、人類の遺伝子の分類らしい。血液型みたいなものと思えばよいだろうか。調べてみたらハプログループは人類の移動と変化の記録でもあり、自分の遺伝子の分類を知ると自分の祖先について知ることができる。

人類はアフリカで発祥し20万年かけて世界各地へ広がっていった。その過程で環境や気候への適応を繰り返しながら違う民族や人種に分かれていった。 ウィキペディアに過去10万年以上のその過程がわかりやすくグラフになって出ている。

まぁ現実はこんな簡単な話ではなく、氷河期や温暖化になり、草原が砂漠になり陸地が干からびたあげく水没したりした。人間で何千世代に渡る時間だ。その歴史を早送りしてみれば人類は右往左往しながら知恵を働かせるだけでなく遺伝子も環境に適応させ生き延びながら世界各地へ散らばっていった、となる。

もちろん途中であえなく消え去っていった遺伝子グループもあるだろう。実際のところ、人間の個体間の遺伝子の差異は他の動物とくらべ小さく、これは人口がほぼ絶滅状態まで少なくなった結果だそうだ。

そして特定のグループが定着した地域に新しい遺伝子グループが移住してくるという「上書き」もよくあったようだ。豊かな環境なら流入した遺伝子グループが共存または吸収されることもあったろう。でもSF風にいえば、平和に暮らす人たちの土地を狙って変異したミュータント達がおそいかかってくるような事もあったろう。

日本でも縄文人と弥生人はもっぱら前者の関係だったという説が多いようだ。その一方、武士の頂点の征夷大将軍という役職はもとは蝦夷と呼ばれた先住民を征伐する、という後者の意味だ。

さて、自分のハプログループだが人間は両親からハプログループを受け継ぐ。23andMeでは父系と母系(女性は染色体の数が違うため母系のハプログループのみ)のハプログループとその歴史も教えてくれる。

まず自分の父系は弥生時代の渡来系だということがわかった。このハプログループは3万年ほど前にチベット高地から東アジアに広まり、紀元前三世紀の弥生時代に稲作と青銅器を携えて日本へ渡来した。その後日本の人口に取り込まれ日本の環境に合わせて変異した遺伝子グループなのだそうだ。

そして母系のハプログループだが、こちらは1万8千年前の氷河期時代にシベリア地域で発祥し、極地並みの寒さだったシベリアでなんとか生き延びた遺伝子グループの人類だった。父系の遺伝子グループよりもっと古代の遺伝子グループだ。 カムチャッカ半島に多いが、氷河期が終わるとともにシベリア北日本海沿岸の地域に散らばって行った。陸続きだった日本にも移住してきた訳だ。

氷河時代の極寒を生き延び、太古の昔に北方経由で日本へ移住した母系ハプログループと、中央アジアから広まり比較的近代に移住してきた父系のハプログループ、その果てしなき時の流れの果てに自分がいるわけだ。

自分の遺伝子にはそんなSFも顔負けの壮大なストーリーが刻まれていた。

(続く)