クリスマスカード

はるか昔、オレゴンで高校生だった頃からの親友がいる。彼とは長い付き合いなので、ティーンエージャー時代から続く二人だけに通じるジョークというのがいろいろある。

大人になってちょっと疎遠になっても、クリスマスと全く無関係な時期に「去年クリスマスカードを送らなかったじゃないか、今から送れ!」とワタシが突然いちゃもんをつける。すると彼が 「わかったよ、ほらクリスマスカードだよ」と送って来る。

いや、現実にはもうちょっと下品な言葉のやり取りなのだけど、とにかくそうすれば間が空いていても何事も無かったのかのように連絡を取り合う。というのが約束のようになっていた。

でも気がついたら最後にそうやって連絡を取り合ってからもう何年も経つ。そこで久しぶりにクリスマスカードを催促してみた。 すると彼から返事は来た。来たのだけど、お母さんが先週亡くなられて今オレゴンに帰っていると言うではないか。

高校生時代、親友宅によく転がり込んでいたのでお母さんの事もよく知っていた。なので少なからずショックだった。

実は彼のお母さんはオランダ人で幼少時代、オランダの植民地だったマレーシアにおり、戦争中の数年、日本軍の強制収容所に入れられていた。

親友の家に初めて遊びに行く前、自分の母親は少々腐ってようがなんだろうが食べ物を絶対に無駄にしないから驚かないでくれ、と真顔で伝えられた。具体的な事は彼も知らなかったが、理由は子供時代の日本軍強制収容所の過酷な環境のせいだと知った時はとても複雑な気分だった。

だがお母さんはそんな話は一回もせず、家の中に困り者が一人増えちゃって、ぐらいに普通に接して冗談を言いあってくれた。

いつの日か大人になったらその当時の話を聞いてみたい、と思いつつ時は過ぎ、自分は大人どころかすっかり通り過ぎてオッサンになってしまっていた。

過ぎていった時間は戻らない。けど、あいつには来週あたり電話してみよう。