M&Aのダークサイド

もてはやされるイメージがあるよね「M&A」。合併・買収だ。何億、何十億のビジネスをくっつけて大きくする。M&Aスペシャリストってまるでビジネスを手玉にとってるようなイメージだ。

そう思ってる人は実はあまりわかってない。企業をただくっつけただけでは数字は増えるけど価値は増えないのよ。M&Aは価値向上が目的でその成果を実現するのはスペシャリストでもコンサルでも無いんだから。

M&A業務の最前線へ

初めてM&Aに関わったのは15年ぐらい前だった。今思えばちょっと変わったM&A案件だった。やり手の社長がホールディング会社を設立し投資ファンドから資金を調達してきた。その資金で米国データプロセシング最大手の損保部門を買収して別会社(A社としよう)として立ち上げる。というものだった。買収額は日本円で千数百億。

自分はそのホールディング会社で小さなチームを組んでソフト開発を仕切っていたけど、A社が立ち上がるとM&A成果達成要員として駆り出された。与えられたのはA社のちょっと特殊なソフトを開発するチームのコスト削減プランを作成実行すること。人員削減だ。

今だから言っちゃうけど、予備知識も与えられずある日突然「削減してこい」と言われて先が見えずすごいストレスだった。

振り返ってみると下っ端で未経験だった自分に前もってコスト削減の極秘情報を教えるわけはない。自分の担当だってたくさんある削減事項の一つをたまたま分野の知識があった自分に割り振っただけ、ぐらいの話だった。

自分が未経験なのは上司は十分承知でオペレーションに長けた老練な人をサポートにつけて自分の進捗を細かくチェックした。客観的に見れば失敗のリスクがない上にとてつもなく勉強になる恵まれた機会だった。

それでも自分にはとつぜん無理難題を押し付けられた感ばかり。しばらくは不安で夜寝られないぐらいだった。

コスト削減の現実

とにかくシリコンバレー郊外のA社に行って現況把握することになり、いろいろと調べていくと意外な事がわかってきた。削減対象チームの業務は人数の割に大したことがないのだ。進行中とされるプロジェクトも首をかしげる内容ばかり。

判明した実態は序列が低い人(残ってもらった)にほとんどの業務が集中し、残りの連中は名ばかりの戦略プロジェクトを推進していると言うものだった。その戦略プロジェクトは納期も締切も無い。もちろん進捗なんか全く無いというお粗末なものだった。

実際A社にはムダがまん延していた。ある部門では数週ごとに業務をしない週にするローテーションを組んでたぐらいだ。

そうとわかれば気は楽だ。自分は対象チームを解雇(レイオフ)し、業務を仕分けして分散した。シリコンバレーに近く人件費が高単価だったので自分の担当だけでも年数億のコスト削減になった。

そうやって業務の吸収合理化はスムースに行った。だが自分がレイオフする人たちとの関係にはキツイものがあった。

削減する側になるということ

アメリカではレイオフされるホワイトカラーは退職金をもらう。失業保険も出る。すぐ路頭に迷うことはない。レイオフは会社都合だから経歴に傷もつかない。

それでもレイオフされるのは感情的にとてもつらいものだ。レイオフする側も違う意味でキツイものがある。引き継ぎを指示する自分にレイオフされていく人たちが向ける表情は最後まで反感に満ちた険しいものだった。

A社は世界中に支社があり自分がいた部門は各国支社にまたがっていた。アメリカでの削減が軌道にのると上司はヨーロッパ各支社にまたがるコスト削減に手をつけた。自分もアメリカ在住のままチューリッヒのオフィスに籍を移しヨーロッパ各地でコスト削減に関わった。

その頃には削減業務は身についていて一人でやっていけた。A社の無駄の多さはどこへ行ってもあったけどヨーロッパでアメリカのノウハウが通用しないことも多々あった。さらにいろいろ勉強にもなった。そのかわりコスト削減対象との人間関係はアメリカ人でもラテン人でもゲルマン人でもきついのは一緒だった。

連中にすれば変な東洋人がやってきて働きなれた職場をかきまわしていくのだ。反感の的になるのはまぁ理解できるよね。それでもあの頃の経験にはあまり思い出したくないものがいくつかある。

M&A成果を出し続けた会社

M&Aにはシナジーと呼ばれるコスト削減が付き物だ。シナジーは業務と人間をどんどん仕分けできる裏方がいて成功できる。そういった裏方からみるM&Aは全く華やかなものではないと思うな。ほんとのM&AスペシャリストならM&Aのダークサイドをわかってるはず。

A社は大幅なコスト削減を達成し株を上場した。やり手の社長は株式公開で調達した潤沢な資金でM&Aとシナジーを繰り返し企業価値を高め、最終的には米国最大手の投資ファンドに約7000億円でフレンドリー・テイク・オーバー、つまり買収された。10年もかけずに二回もイグジットをしたわけだ。

その後の自分

M&A現場業務はいろいろと学べたし面白かった。それなりの成果も出したし評価もしてもらえた。だが一区切りつけたところで自分はビッグデータ分野に転職してダークサイドに別れを告げた。仕事の内容は全く違うけど次の段階への良い経験になったと思う。

「コストカットの鬼」と恐れられた上司や同僚たちは引き止めてくれたけど数年後は同じように自ら転職していった。

さらにその後その上司にまたヘッドハントされてしまい、今の職場でもM&Aに関わっている。以前とは全然違う環境でこれはこれで面白いのでまたいつか書けたら書きますよ。

引越坂
グローバル人材の定義が的はずれな件

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