ハッセルを撃つ

英語で写真を撮る事を "shoot", 撃つという表現をするのだけど、実際にハッセルを撃ったという人に出会ってしまった。  気のいいオジイさんだが、若かりし頃ベトナム戦争にカメラマンとして従軍していたそうだ。 

ベトナム戦争当時、米陸軍に戦闘状況を記録撮影する部署(DASPO - Department of Army Special Photographic Office)があり、その所属だったらしい。 ライフルの代わりにカメラを担ぎ、ジャングルを行き、弾丸が飛び交う中カメラを構えて撮っていた。というちょっと信じられない世界だ。

戦場なので悠長に撮ってられない。 危ない事はしょちゅうあった。 実際について行った部隊が敵に完全に包囲された事もあったそうだ。 強烈な撃ち合いが続く中、全滅か投降かという危うい状況になった。 そう言う場合は軍規で無線や地図などの情報は敵の手に渡らないように破棄しないとならない。 戦闘を記録した写真もおなじだ。 彼はフィルムを全部感光させた後、携行していた45口径の拳銃でハッセルを撃って処分したそうだ。 

幸い救援のヘリ部隊が強行撤収に来てくれて無事帰還できたそうだけど、「あのハッシー(Hassy、Hasselbladの愛称)には悪い事をした」と言っていた。

彼は退役してからポートレート専門のスタジオをやっていたのだけど、デジタルが出回るようになりさっさと店をたたんで引退してしまった。 今はラジコンとかして遊んでいる。

面白いのが彼は仕事を離れて撮る事ができないと言っていた。 だからスナップも撮らない。新婚旅行でさえも自分で写真は撮らなかったそうだ。 今も気に入った仕事があればポートレートを撮るけど、ペット専門で人間はおまけ。 そしてペットのポートレートも飼い主が喜ぶできばえでないとお金も取らない。

やっぱり写真する人って偏屈なところがあるんだな。 きっと。